フリースタイル心臓手術の麻酔②オフポンプCABG編

2020年4月21日 0 投稿者: freeanesth

人工心肺を使用しない心臓手術と言えばCABGがほぼ全てです。なのでここではCABGの麻酔を前提として書いていきます。

①人工心肺使用編が想像以上の長文になり、若干めんどくさくなったわけではないんですが結論から言いますと人工心肺使用編とほとんど変わりません。

以上。。

さすがにこれだと苦情が出そうなのでちょっとした自分なりの注意点を書くことにします。

用意するモニターは人工心肺編と同じです。

準備する薬剤などは人工心肺とほとんど同じです。違いは

⑴ヘパリン初回投与量は0.1~0.15mL/kg程度で十分。

⑵ノルアドレナリンは薄め、3Aを50mLにして用意する。

⑶メイロンをショットで20mL 用意する。

⑷2%静注用キシロカイン5mL用意。

ぐらいでしょうか。オノアクト50㎎を10~20mLで希釈してワンショット用として準備してもいいです。

【術中管理:吻合前】

内胸動脈、大伏在静脈などグラフトを採取しているときはあまりやることはありません。内胸動脈を取るときは少し1回換気量を落としてあげると術者に優しいです。

※橈骨動脈をグラフトで使うかどうかは必ず確認しましょう。術式が前日に急に変更になっていたのが麻酔科と看護師に伝わっておらず、左手にAラインを入れてなんとも気まずい雰囲気になったことが一度だけあります。。無事に手術は終わりましたけど。。

①輸液

年齢、体格、心機能により異なりますが吻合開始前に最低でも1000~1500mL程度は入れた方がいいです。ボリューム不足だと心臓を脱転したときに血圧が全く維持できなくなります。ボルベンなどの膠質液も500~1000mL程度、肺動脈圧を見ながら輸液します。透析患者の場合は最初からRBCをゆっくり輸血した方がいいです。その場合、カリウム上昇などに注意してください。いずれにしろ、肺動脈圧とアウトプットはしっかりキープします。

②薬剤

⑴心臓を触り始めたら2%キシロカイン0.5~1㎎/kg静注。虚血性心疾患、特に心筋梗塞の場合は触り始めると心室性不整脈がばらつくことが多いので使用しますが魔除けに近いです。

⑵ヘパリン投与後のACTですが250秒以上くらいはキープしておきたいところです。施設によりますので確認した方がいいでしょう。

⑶カテコラミンですが、イノバンorドブポンとノルアドレナリンは可能であれば別ラインにしておくといいです。どちらも低用量で開始して吻合時には届いている状態にしておきます。脱転の際にノルアドレナリンの調整は少し頻回になることが多いのでイノバン、ドブポンの流量が大きく変化するのを避けるためです。

【術中管理:吻合中】

スタビライザーの進化のせいかあまり極端な徐脈管理を要求されることはないです。心拍数は60~80くらいなら気にしなくていいかもしれませんが術者から落としてほしいと言われた場合はオノアクト5㎎静注などで反応を見て必要なら3γ~程度で持続静注してもいいです。

①LAD

心臓をひっくり返さないので比較的バイタルを保つのは容易なことが多いです。しかし、縦揺れするためかあまりカテコラミンが効きすぎていたり心拍数が高いと吻合しにくいかもしれません。カテコラミンは少なめでイノバンなどは0.5~2γ程度で事足りることが多いです。吻合中の少々の血圧低下はネオシネジン0.1㎎静注などで十分です。

②LCx、RCA

心尖部を引っ張っていわゆる脱転します。ここからは経食道心エコーはあまり役に立たないうえに心電図は低電位になったりでよくわからなくなりがちです。

肺動脈圧と体血圧、そして術野での心臓の動きを見て対処します。大事なことですが心臓手術においてはモニターばかり見ているのはダメです。私の師匠であるゴッドハンド先生は「モニター3割、術野7割」と口酸っぱく言っておりました。不整脈も見てればわかるし脱転して心臓が苦し気にのたうっているときは血圧は絶対下がってます。ゆえに吻合中は絶対に術野注視です。座るの禁止です。ちなみに私が大学でペーペーだったころ、一般外科の手術で座っていたところ モニターばっかり見て術野を見ていないということで、師匠ではない麻酔科の某先輩から1年間座るの禁止されました。。

「麻酔とは車の運転のようなものだ。だがお前の運転は前すら向いていない!お前は1年間座るの禁止!」

それから1年間、耳鼻科の長時間手術以外は座れませんでした笑

現代の麻酔科医は吻合中以外はぜひ座っていただきたいと思っています。疲れちゃいますからね。

話がずれましたが脱転して肺動脈圧↓、血圧↓というのはほとんどないです。なぜなら前提として吻合前には十分な輸液をしているためです。もし肺動脈圧↓、血圧↓なら吻合前のボリュームが足りません。安易にカテコラミン増量せず、ネオシネジンで立て直している間にボルベン1本入れたほうがいいです。

肺動脈圧↑、血圧↓➡これが一番多いです。MRが起きているからとかいろいろ理由があるんでしょうがこうなるとむやみやたらとボリューム入れてもしかたないので頭低位、イノバン、ドブポン増量(だいたい2~5γくらい)、アルドレナリンを0.025~0.1γくらいで開始します。ノルアドレナリンで限界まで末梢を締めてカツカツの状態でバイパスすると逃げ場がなくなりますので、薄いノルアドレナリンで脱転をキープできるくらいの仕上がりを目指すのがコツです。あまりに維持がきついようなら脱転をやり直してもらうことも考えます。

※無理そうなときに外科医の剣幕に負けて見切り発車しないようにしてください。ただ、「大丈夫」とも「無理です」とも言わず黙ってしまうのはいけません。心臓血管手術の麻酔は術者とのコミュニケーションがとても大事、術者と一緒に眺める経食道心エコーはモニターではなくコミュニケーションツールと改名した方がいいとすら思っています。以下のような玉虫色対応で時間を稼ぎましょう。

「先生、大丈夫?いっちゃっていいよね!」

「ちょっと血圧を見させてもらっていいですか?」

術者の技量にもよりますのでいけるかどうかの判断基準というのはないんですが、個人的には脱転して上記の設定でいったん下がった血圧が自然と回復してくるようなら大丈夫な場合が多い気がします。

吻合が始まったら後はネオシネジン静注、ノルアドレナリン増量で耐えしのぐしかないです。

肺動脈圧↑に対してミルリノン0.1~0.2γ程度の併用は考慮してもいいと思いますがミオコールは効いてる印象がほとんどないので私は使ってないです。

脱転を戻すと血圧が猛烈に上がりがちです。そのような場合はニカルジピン0.5静注で対処します。1㎎静注するとジェットコースターのように血圧が下がることがありますので控えめな量を推奨します。

※脱転中は低アウトプットで末梢循環も悪くなります。かなりBEがマイナスに傾きアシドーシスになっていることがあるんですが、吻合中はAラインの圧を消しにくいので血ガスが取りにくいです。そのため、脱転時に次第に血圧が低下してきてネオシネジンの反応が悪くなってきた場合はメイロン20-30mL程度を盲目的に静注することがあります。数分程度、血圧の改善がみられることが多いのでカテコラミン増量を避けつつ時間稼ぎに使えます。ただ、1回の脱転で2回くらいが限界で3回以上使用してもあまり効果がなくなってくるような印象があるので盲目的に多用するのはお勧めしません。

※術中にVfやVTなどが複数回出るようなら早々にアミオダロン持続静注を開始。ブロックは術野からのペーシングで対応。

※Aortaへの中枢吻合の場合はパーシャルクランプする際に血圧をニカルジピンで下げます。

【吻合終了~手術終了】

内胸動脈を採取する際に胸腔内に以外と血液が流れ込んでいることもあるのでエコーで確認。その他、壁運動、弁機能などを確認する。

その他、人工心肺使用症例とあまり変わらないです。

オフポンプCABGで大事なことは吻合中、特に脱転時の管理になると思います。少々、余計なことも書きましたが最終的な結論としては「無理なもんは無理」です。

低心機能やハイリスク患者に気合のオフポンプCABGは本当に正しいのかわかりません。術者と仲良くなって「いやー先生、ちょっときついっす!バルパン入れてほしいっす」と言えるようになれれば最高のマネジメントと言っていいのかもしれません。

ちなみにIABPがあると麻酔管理はとっても楽になります。。